科・属名
クワ科 Moraceae
クワ属 Morus
学名
Morus australis poir.
英名
Japanese mulberry,Chinese Mulberry
和名の由来
山に生えるクワの意。旧仮名遣いの「クハ」はカイコが葉を食うことから「食葉」(くは)、あるいは「蚕葉」(こは)に由来。
学名の由来
属名はケルト語でクワを意味する。あるいは、Morus ケルト語の「黒」の意。果実の色に由来。種小名のAustralis 「南の」の意。
木の特性
分布
北海道から九州、南樺太、朝鮮半島、ベトナム、ミャンマー、ヒマラヤに分布する。
形態
落葉高木。
雌雄異株または同株。雌雄異花。樹皮は灰褐色、縦に筋がはいり、薄く剥がれる。葉は薄く、基部から3本の主脈が出る。葉縁には荒いきょ歯がある。若木では葉に大きな切れ込みが入るが、古木では心形となる。
春、当年枝に花序を付ける。雄花は茎の先端に尾状花序を付ける。がく片は緑色、雄しべは4、花糸は緑色、葯は黄色。
雌花は枝の基部に付き、球形。がく片は暗緑色、花柱は1で長く、柱頭は2裂する。
果実は複合果、5月頃に熟し、赤紫色となる、サイズは1㎝程度。熟すと甘くて美味しい。
特性
根皮はモルシン(プレニルフラボノイド)、クワノン A~T、ムルベロフラン A~K (ベンゾフラン誘導体)、ムルベロサイド A~C(配糖体)を含む。
辺材は淡黄白色、心材は暗黄褐色で、木理は粗で、硬く重い。
狂いが少なく強靭であり、加工が容易。桑は生長が早いが中が空洞に成ったものが多い。
桑の材質は堅く、磨くと深黄色になることで工芸品に使われる。年輪が緻密で木目が美しいが良材は少ない。
古くから弦楽器の材料とされ、正倉院には桑製の楽器として枇杷、撥弦楽器の阮咸(げんかん)等が保存されており、江戸指物にも使われ、高齢者の用いる杖の素材とされた。
生薬
生薬名
桑根白皮 神農本草経(中)は マグワ Morus alba L. ヤマグワ Morus australis Poir. で同じ
使用部分
根皮
採集時期・方法
春と秋に根を取り、水洗いして、乾燥しないうちに外皮をはぎとり、日干しにする。
色・味・香り
外面は白色~黄褐色を呈し、周皮を付けたものは周皮が黄褐色ではがれやすく、赤褐色ので横長の皮目が多数ある。内面は暗黄褐色。わずかににおい及び味がある。
撰品
外面紫色をおび、内面白色で柔らかく、皮の薄いもの。
主な薬用成分
トリテルペノイド(amyrin betulinic acid), フラボノイド(morusin),ステロール類(sitosterol), 脂肪酸
公定書
日本薬局方 ―ソウハクヒ MORI CORTEX
マグワ Morus alba Linne(Moraceae)の根皮である。
局外生規:―
中共薬典 ―
漢方例
五虎湯(万病回春)、分心気飲(和剤局方)
薬性・薬味
甘、寒
応用・利用
日本の民間療法には果実<桑椹>利尿・強壮作用があり、低血圧症 不眠症 冷え症に効果があり、 桑椹酒として愛飲される。 葉は中風・高血圧に御茶代わりに飲む。
桑白皮は鎮咳・解熱・利尿・消腫の作用があり、気管支炎・喘咳・浮腫・排尿減少などを改善する薬方に配合される。
暮らしの中での用途や木にまつわる話など
ヤマグワは、わが国で最も一般的なくクワの種類。葉を養蚕に用いる。
桑はクワ属の総称、カイコの餌として重要な作物であった。材は建築材、器具材として利用。樹皮は和紙の原料。果実を生食する。桑の実は甘く美味しいが、ガの幼虫が好み、幼虫の体毛が抜け落ちて付着するので生食する場合には良く水洗いした方が良い。
を煎じてお茶として飲むと補血、強壮に効果がある。枝は炒ってからお茶として飲むと中風、動脈硬化の予防になる。果実は酒につけ果実酒として飲めば、低血圧症、不眠症に効果がある。皮は繊維質なので東南アジアの国では布を作り、また、紙やロープの原料とにもしている。
わが国では靭皮繊維を和紙の原料としていた。建築材のほか、お椀や碁笥(ごけ)などの器具材としても利用される。
柱、床板、箪笥、その他の家具、器具材として利用される。樹皮の煎汁は草木染に利用され、布を黄色に染めるのに使われる。樹皮のあまかわは焼酎に漬け桑酒とする。
養蚕用のクワの葉は古くは野山に自生するものを使用していたが、江戸時代中期以降に養蚕が振興されて畑にクワを栽培するようになった。葉は管理が行き届いていれば15~20年は収穫可能である。
桑はわが国では古くから栽培され、養蚕に使われてきた。日本書紀には5世紀後半に諸国にクワを植栽することが命じられたことが記載されている。8世紀初めにつくられた律令では、百姓の戸ごとにクワとウルシを植栽することを義務付けている。
クワは雷除けの木とも考えられ、雷が鳴ると「くわばら、くわばら」と唱える風習があり、雷が鳴りだすとクワの葉を頭に載せたり、家の入口や窓に挿すと、雷が落ちないとの言い伝えがある地域がある。「くわばら、くわばら」の語の由来には各地で諸説がある。クワバラは漢字では「桑原」となる。
和泉市桑原町の西福寺に「雷井戸」と呼ばれる井戸があるが、この井戸に落雷した時に蓋をしたら雷が「もう桑原に落ちないから逃がしてくれ」と約束したという説。
宮崎県福島村で雷がクワの木に落ちた時に、雷が怪我をして以来、雷は桑畑に落ちないようになったという説。
沖縄県では雷がクワの又に挟まれて消えたため雷が鳴ると「桑の又」と唱えて雷を避けるようになったという説。
養蚕の発祥の地、中国ではクワは神木であった。それにまつわる神話伝説が数多く残されている。
古代中国の書物「山海経」の中で扶桑という巨大な神木があり、そこから10個の太陽が昇るとされていた。ゲイ(げい)と呼ばれる射手がこの中の太陽9個を打ち抜き1個だけにしたことから天と地が安定したという。
古代日本で桑弓は男子が産まれたときに将来の厄払いのため家の四方に向かって桑の弓で蓬の矢を射た。この起源は古代中国文明圏に模して、男子の立身出世を願うための一種の通過儀礼で、これが日本に伝えられて男子の厄除けの神事となった。この時使われる弓は桑の木でつくり、蓬(よもぎ)の葉を矢羽としたものであった。
日本でもクワには霊力があるとみなされ、箸や杖が中風(脳血管障害)を防ぐとされた。鎌倉時代の「喫茶養生記」には「クワは仙薬の中で最上のもの」と記されている。